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薬剤師研修支援システム

 蟬退(センタイ) 

2018年12月
専務理事  浦 山 隆 雄

 

 例年より暑かった今年の夏は、蝉の鳴き声がひときわ大きいように感じられた。自宅近くの公園で、たくさんの蝉が毎年鳴いている。北国にいた子どものころも、蝉の鳴き声は聞いていたが、やはり暖かい地方の蝉の数は桁違いである。

 蝉の鳴く公園の木の下には、たくさんの穴があいている。直径1センチくらいで、蝉(終齢幼虫)が出てきた穴であろう。子どものころは、見た記憶がない。多くの蝉がいて初めて人の目に触れるようになるのだろうか。

 その穴の近くの木の幹には、蝉の脱け殻が付いている。近くといっても、30センチ、50センチ、1メートルくらいのところもある。蝉の体長からすれば、相当な距離である。長い年月を暮らした地中から出てきて、蝉にとっては長い距離を歩き、木によじ登り、羽化する。蝉が晴れ姿を見せるための試練だろう。

 そして、大合唱の一員となる。

 平成27年度から薬学教育モデル・コアカリキュラム(改訂版)に基づいた薬学教育がなされてきた。来年度からはその教育を受けた学生が実務実習を受けることになる。今年度、関係者の御協力を得て、認定実務実習指導薬剤師養成講習会用DVDを新たに作成し、配付した。新規認定講習と更新認定講習の双方で新たな考え方を学んでいただいている。

 多くの病院・薬局が薬学生の実務実習に携わり、そこで指導に当たる薬剤師も研鑽を怠っていないであろう。着実な学習の積み重ねの上に行われる実務実習の意義は,薬学生にとって大きい。その分、指導する薬剤師の役割には大なるものがある。その一方で、認定実務実習指導薬剤師の更新申請書に記載されている、認定期間中に指導例が1例もなかった理由を読むと、実習生の受け入れに積極的ではないところが未だにあることがわかる。事情はそれぞれあろうが、後輩の育成は先達者の義務ではないだろうか。

 蝉は、暗い土の中に何年もいて、地上に出て短い期間鳴き、次の世代に命を引き継ぐ。長い間の着実な暮らしの積み重ねは、このときのためである。そして、蝉は、それに加えて数少ない動物生薬の一つである蟬退を、人間のために残してくれている。

 次代へ繋ぐことは薬剤師の使命の一つである。

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センタイ
本品はスジアカクマゼミ、ミンミンゼミ、コマゼミ、ホソヒグラシ、ニイニイゼミ又はそれらの同属動物の幼虫のぬけ殻である。 (日本薬局方外生薬規格2015 抜粋)