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薬剤師研修支援システム

 教科書 

2021年3月

専務理事 浦山隆雄

 

  小学校に入学して以来、たくさんの教科書を使ってきた。薬学部も然りである。

 生化学の教科書は英語版だった。翻訳本もあったが、教授は英語版を薦めていた。薦めに従って、私は英語版を買った。読みこなせたわけではない。ただ、授業自体は先生の日本語での講義だから、支障はほとんどなかった。そして、英語版を買った者にはご褒美があった。期末の試験問題の一つが、その教科書に載っていた英語で記載された問題そのままだったのである。

 薬事法規の教科書は、法令の説明が無味乾燥に記述されており、穴埋め問題がたくさん掲載されていたと記憶する。講師は薬事行政にかかわっている大学外の方だったが、その本をただ読み上げているだけだった。正直なところ、何も覚えていない。読んで楽しい記述の教科書が欲しい、生の行政の話もして欲しいと思っていた。

 年月が過ぎ、縁あって、薬学生の教科書となることを目的とした本の分担執筆をすることになった。単発ではあるが薬学部での講師も経験した。行政に携わっていれば、法令の規定は、どう解釈し、どう適用するか、目の前に事例があるので、生き生きとしたものになる。しかし、それを知らない学生にどう説明するのか、どう文章で表現するのか、困難の一語である。生の行政の話も、当該者の人権尊重の観点から、かなり吟味しなければ話をすることができない。教科書に楽しい記述をすることや事例を話すことは、ほとんど無理な注文であったことに気づいた。

 薬剤師の業務は、法的には、この30年で大きく変わった。

 調剤の業務を行う場所であった薬局は、必要な情報の提供や薬学的知見に基づく指導をも行う場所となった。薬剤師は、調剤のみではなく、患者さん等に必要な情報を提供し必要な薬学的知見に基づく指導も行うこととなり、さらには、患者さんの薬剤使用の状況を継続的かつ的確に把握して対処することも求められる職業になった。

 法律の条文に記されているのは、大きく括られた内容である。それを薬剤師の具体的な業務として取り込んでいかなければ、求められる薬剤師になることはできない。

 新たな取組みが導入されるたびに、教科書はないのか、それに関する研修は行われないのかという声が聞こえる。先駆者が実践したことを記載すれば教科書のような書籍は作ることができる。それを読んで、学ぶことはもちろん可能である。しかし、目の前の事例にどのように適用し、どのように対応するのかは、教科書では示されない。学んだうえで、自ら、考え、工夫する次の一歩が必要である。

 法律に基づいて、地域連携薬局や専門医療機関連携薬局と称することがまもなく認められるようになる。教科書探しは卒業の時であると思う。 。