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薬剤師研修支援システム

 薬剤師と漢方薬 

2021年8月

一般社団法人日本生薬学会 会長 森田 博史

 

  新型コロナウイルス感染拡大は、世界中の多くの方々の健康や活動に影響を与えました。このような騒ぎに隠されてしまったかの感がありますが、今、日本は着実に超高齢化への道を進んでいます。

  最近の高齢化社会において漢方治療は、現代医療と相互補完の形で応用され始めたことから、漢方製剤の需要はますます高まっており、病院の調剤室には医療用漢方製剤が置かれ、ドラッグストアでは一般用漢方製剤がセルフメディケーションに用いられています。このような医療現場における漢方薬の利用の増加から、薬剤師には漢方に関する専門的知識が要求されるようになっています。漢方の専門知識を身に付けるということは、医療現場における漢方治療の面で、医師と対等に向き合える武器を身に付けることになります。

  漢方薬は生薬の組み合わせでできている医薬品です。生薬は、そのものが多成分系の医薬品である特殊なものであり、漢方で重視している「バランス」を調節することに向いています。最近では、漢方エキス製剤については、エビデンスや副作用のデータが増えつつあり、漢方薬の利点を近代医薬品とうまく融合することで、治療効果と共に、患者さんのQOL向上にも大きく役立つはずです。

  日本生薬学会が日本薬剤師研修センターと共同で実施している漢方薬・生薬認定薬剤師制度は、2000年より開講して、すでに延べ7,000人以上もの薬剤師が履修し、3,317名(2020年12月31日現在)の認定者を出しております。本制度は、漢方薬・生薬に関する専門的知識を修得し、能力と適性を備えた薬剤師であることを認定するものです。認定されたことにより、患者や処方医師に自信を持って漢方薬・生薬に関する情報提供ができます。また、「漢方薬・生薬認定薬剤師」であることを、認定証掲示やIDカード着装により、患者や他の医療従事者にアピールすることもできます。生薬という特殊な多成分系薬物に基づいた漢方薬の理解は、今後、薬剤師にとってこれまで以上に有用になり、漢方薬・生薬の適正使用と正しい知識の社会への普及にも繋がっていくと考えております。

  感染の拡大によって、研修の受講にも支障が生じてはおりますが、ウェブ技術などを活用することにより、より多くの薬剤師が漢方薬・生薬の世界の扉を敲き、高齢化社会における医療への貢献に繋げて欲しいと願っています。