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薬剤師研修支援システム

薬剤師研修への期待

2012年6月
自治医科大学 名誉学長  高久 史麿

 

 医療の現場において最も重要な事項の1つに『医の安全』がある事は言うまでもない。わが国では2008年から医療の質・安全学会、日本病院団体協議会、日本医師会、日本歯科医師会、日本看護協会、日本臨床工学技士会の呼びかけにより、全国の病院と病院団体、各職能団体、並びに諸学会が連携して、『医療安全共同行動』が始まり、この運動は現在第二期目を迎え、新たな展開を目指している。

 

 この医療安全共同行動は、医療の安全に必要な9つの目標を掲げているが、その目標の第一に挙げられているのが、『危険薬の誤投与防止』である。薬剤の誤投与は医療事故の中で最も多く見られる事故であり、この事を医療関係者全員が常に留意すべきであるが、その中でも薬剤師がこの事故防止に中心的な役割を演じる事の必要性は言う迄もないであろう。

 

 周知の如く、最近では癌や自己免疫疾患等を対象とした標的治療が日常の臨床現場で広く行われる様になってきており、それだけに薬剤の有効性、副作用に関して幅広い知識を持つ事が薬剤師に求められるようになってきている。この様な時期に6年の薬学教育を受け、より充実した臨床経験を有する薬剤師が誕生する事は医療の安全の観点から誠に好ましい事であると考える。新しい薬学教育を受けられた薬剤師が積極的に臨床の現場で医療の質と安全の向上に寄与される事を期待している。わが国では1997年にMR認定制度が導入され、それに伴って『財団法人医薬情報担当者教育センター』(MR教育センター)が設立され、第1回MR認定試験が全国11地区で行なわれた。このMR認定制度はわが国では既に定着し、MR の医薬情報の伝達者としての役割が確立してきていると考える。このMR活動の中で重要な役割を演じているのは専門知識の豊かな薬剤師である事は医療関係者の広く認めるところである。

 

 医療の現場には日常的に新しい薬剤の導入が行なわれている。従って、薬剤師には新しい薬剤に関する正しい情報をいち早く取得し、その情報を医療の現場に役立てる事が求められる。その為には日本薬剤師研修センターによる薬剤師の研修を今後より強化する事が望まれる。現在はチーム医療の時代である。医療チームの一員として薬剤師が医薬品の適正使用に関してより積極的な役割を果たす事が期待される。

 

 6年制の教育を受けた薬剤師が誕生する今年こそ薬剤師がその活躍の場を広げる絶好の機会であり、その為にも薬剤師に対する研修のより一層の充実を強く期待して巻頭言の締めくくりとしたい。