2013年2月
一般社団法人日本医療薬学会 会頭 安原眞人
2012年は我が国の医学・薬学の研究者にとって、その倫理観が問われる年でありました。研究論文の捏造、倫理指針を逸脱した臨床研究の実施や研究費の不正使用などの報道が続き、山中伸弥教授のノーベル賞受賞決定直後に起きたiPS細胞の臨床応用に関する虚偽発表騒ぎは世界中の顰蹙を買うこととなりました。
現在、臨床研究に関する倫理指針の改訂に向けた作業が進行中ですが、逸脱者に対処し被験者を保護するために法制化を求める声があると聞いています。「法」と「倫理」の主たる違いは、法が社会の秩序維持を主目的に社会による強制力を伴う規範であるのに対し、倫理は行為者の自発性が重視される点にありましょう。憲法が保障する学問・研究の自由は研究者の倫理に対する社会の信頼の上に成り立つものであり、すべての研究者は社会の信頼が揺らぎつつある現状に危機感を持って対処していかなくてはなりません。
薬剤師法の定めにより、薬剤師国家試験の合格者には調剤に関する独占資格が与えられます。薬剤師の職務は、薬剤師法に加えて薬事法、医療法など罰則を伴う関連法規により規定されていますが、それは取りも直さず薬剤師が国民の健康と安全に直接関わる重大な責務を負っているからにほかなりません。規制緩和の流れの中で、薬剤師として社会から付託された責任を果たしていくためには、薬剤師としての知識・技能に加えて、その倫理性についても生涯にわたる研鑽が求められます。
日本医療薬学会は、医療を担う薬剤師を支える学問的基盤を構築し、薬剤師に必要な知識・技能を提供するための様々な活動を行っています。認定薬剤師、がん専門薬剤師、薬物療法専門薬剤師といった医療薬学会の認定制度は、病院、保険薬局、大学、企業、行政など様々な領域で活躍する薬剤師がそれぞれの職業倫理に基づき高い専門性を有していることを認証し、薬剤師の活動を社会に向けて発信し発展させようとするものです。研鑽による自己の到達度を客観的に評価し、薬剤師としてのキャリアパスを構築していくための手段として、これらの認定制度を是非活用いただきたいと思います。