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薬剤師研修支援システム

生薬と漢方薬のスペシャリストになろう

2013年7月
京都薬科大学名誉教授 吉川雅之

 

 生薬は、動植物や鉱物の中から人への使用経験をもとに取捨選択されて現代に伝えられたもので、医薬品のみならず、食品や香粧品などとして幅広く用いられています。生薬の医療への利用システムの一つとして漢方があります。漢方は中国から伝来し、日本において幾多の変遷を経て独自の発展を遂げてきた日本固有の伝統医薬学であり、今日の医療の一翼を担っています。医学領域では、ほとんどの大学で漢方医学が必須科目となっており、8割以上の医師が漢方薬を処方しています。高齢化社会となって医療の重点が高齢者の健康維持や病気予防に移っていくといわれており、漢方は時代が求める医療としての重要性を増しております。薬剤師が漢方の分野においてもマテリアルサイエンスと医療の両面で指導的な役割を果たすことが求められています。また、情報化時代の今日、生薬を原料とした健康食品や香粧品などに関する多種多様な情報が各種マスメディアから世間に氾濫しております。これらの情報は玉石混淆ともいえ、なかには不正確で有害な意図的虚報ともいえるものが数多く認められます。これらは薬局で明確に是正され、正しい知識が提供される必要があります。このように、生薬や漢方薬の知識は薬局の日常の業務に必須とおもわれます。

 

 漢方は、西洋医学とは全く異なる医療体系と理論を有しており、独特の診断と治療方法に従って漢方薬が投薬されます。漢方薬は生薬から構成されていますので、生薬や有効成分および薬用動植物などに関する知識が漢方薬を理解する上で必要になります。 しかし、かつて薬学教育の中心であった生薬、漢方系教科が、近年の薬学領域の多様化によってカリキュラムに占めるウエイトが著しく少なくなっております。また、これに準じて薬剤師国家試験の出題数もわずか数問に過ぎないことから、学生も生薬や漢方に興味を示さなくなっております。そのため、新しい薬剤師の多くが生薬や漢方について不十分な知識のままで医療現場に送り出されているといっても過言ではありません。

 

 このような現状を改善するため、日本生薬学会と日本薬剤師研修センターは大学教育で不足している生薬と漢方薬の知識を補い、さらに日新月歩する新しい研究成果を薬剤師に提供するために、“漢方薬・生薬認定薬剤師制度“を発足しております。薬剤師の皆様には、本制度を生涯研修として利用していただき、生薬と漢方薬のスペシャリストとして磨きをかけられることを期待いたします。