2013年8月
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
理事長 近藤 達也
皆様方のお仕事の基盤は薬事にあります。あらためて薬事とは何かと問われて、答えに戸惑う方は多いと思います。薬事法の第一条には、その目的として「この法律は、医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質、有効性及び安全性の確保のために必要な規制を行うとともに、指定薬物の規制に関する措置を講ずるほか、医療上特にその必要性が高い医薬品及び医療機器の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより、保健衛生の向上を図ることを目的とする」とあります。これは国民の健康の為に医薬品・医療機器等の品質・有効性・安全性を審査し、必要な規制を行い、さらにそれらの新たな研究開発の促進の手助けをしようというものであります。医療において、医師は、ヒポクラテスの誓いのように医療倫理に従って、患者さんにとって最善の医療を提供する努力をしています。これは、より進んだ医療を提供するとともに、患者さんにとって不利なことは絶対にしないということであります。一方、薬事の世界では、同じように、医薬品・医療機器等が多数の日本国民の治療に可能な決め事をしていかねばなりません。つまり、医療の世界での医療倫理は医師と患者の関係は1対1の信頼関係でありますが、薬事での医療倫理の関係は日本中(又は世界)の医療人と患者との相互に複数かつ巨大な信頼関係の中に置かれます。これが、薬事こそ究極の医療倫理と思う所以です。
嘗て1987年国立衛生試験所(当時)、内山充博士が副所長に就任された折に人類や社会の為になることを目指した倫理的な研究としてレギュラトリーサイエンスを提唱されました。2008年以降、PMDAは世界に向かってレギュラトリーサイエンスの普及に努めて参りましたが、この考え方は、薬事に止まることなく、広く社会全般に及ぶ人類の幸福を目指す学問であり、より進化した社会を目指す学問と思います。薬事から広まりつつあるレギュラトリーサイエンスを皆様方と共に広く社会全般に広め、より良い社会の設立のためのツールとして発展させていこうではありませんか。