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薬剤師研修支援システム

薬袋 

2015年3月
専務理事 浦山 隆雄 

 

 だいぶ前に聞いた話であるが、ある国立病院勤務薬剤師の新人の時の仕事のひとつが薬袋書きだったそうである。

 受付直後の処方箋を見て、適切な大きさの薬袋を選び、氏名などの必要事項を記載する。大多数の病院が自動化されていない手書きの時代である。医薬品を入れる袋を選んで、決まっていることを記載するだけであるから、簡単なようだが、そうではなかったそうである。調剤した医薬品のできあがりの総容積が、処方箋の文字を見ただけで想定できなければ、適切な大きさの薬袋を選ぶことができない。そんな大きさの薬袋では入らないと何度も指摘されたと、その薬剤師は言っていた。

 処方箋の文字を見ただけで総容量がわかるというのは、プロの技である。薬剤師の業務としては難しいことではないが、個々の作業を理解したうえで、全体を見通せないと難しい。軟膏剤をうまく錬成する、分包機上の1つ1つの包みに均等に薬剤を配分する、そんなプロの技を、薬剤師はたくさん持っていただろう。20年ほど前の『都薬雑誌』に、軟膏剤などの薬局製剤を均質に作るためのコツが掲載されていた記憶がある。数々のプロの技が積み重なって、その当時の望まれる薬剤師が成り立っていた。

 現在、多くの病院では様々なことが自動化されているであろう。薬袋書きが薬剤師の業務のひとつではなくなっているところが多い。そんな時代の薬剤師は、どんなプロの技を持っているだろうか。

 患者さんが調剤された薬を受け取るときに見るのは、多くが錠剤やカプセル剤であり、しかも、PTPなどの包装がされている。そこから想像される薬剤師のした作業は、数を数えることだけである。さすがに、印刷した薬の説明書を薬袋に入れるだけで服薬指導をしたことにするということはなくなっているであろうが、通り一遍の説明や病状の確認だけで済ませられている例もあるだろう。数を数えるだけでできそうな薬を出されて、通り一遍の話があっただけでは、薬剤師が何のために存在するのかを理解してもらうのは無理である。

 いまさら、薬袋書きをすべきだと言うのではない。新たな薬剤師のプロの技を見つけるべきである。それには、個々の薬剤師が、将来の自分の姿を描きつつ、それに向かって努力を続ける必要がある。また、先輩薬剤師は、そういう後輩にあるべき姿を見せる必要がある。

 生涯に亙る自己研鑽が必要な所以である。