2015年8月
国立医薬品食品衛生研究所 所長 川西 徹
レギュラトリーサイエンス(RS)を1987年に我が国で初めて提唱したのは,元薬剤師研修センター理事長内山充先生(当時国立衛生試験所(現 国立医薬品食品衛生研究所)副所長)です。先生はRSを「科学技術の進歩を真に人と社会に役立つ最も望ましい姿に調整(レギュレート)するための,予測,評価,判断の科学」として提唱されましたが,現在特に医薬品・医療機器等の規制関係者や,食品・化学物質安全行政に関わる関係者の間で認知が広がっております。このような状況下,平成27年から導入される6年制薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂版にRSがとりあげられました。そこで日本薬学会RS部会(部会長:白神誠日本大学教授)では,文部科学省「平成26年度大学における医療人養成推進等委託事業」による委託をうけ,RS教材案を作成しました(http://www.pharm.or.jp/kyoiku/pdf/regsci150708.pdf)。教材案では内山先生の定義を基本とし,さらに薬剤師あるいは薬学が関わることの多い医薬品,医療機器,食品安全,化学物質安全を各論にとりあげ,RSの関与を説明するとともに,RSの活用例を例示しました。
医薬品のRSについて少し詳しく説明すると,本教材案では医薬品のRSを「医薬品開発および医薬品の育薬/ライフサイクルマネジメントにおいて必要とされる,医薬品の品質,有効性,安全性の的確な予測,評価,判断を支える科学」であり「分析化学,生化学,薬理学,毒性学,遺伝学,生物統計学,疫学,臨床医学等の基礎科学や応用科学に基づく科学であり,さらに意志決定科学のような社会科学やリスク管理に関する手法を活用した総合科学」としました。RSの医薬品開発への関わりは概ねリード化合物の最適化に始まり,当局への承認申請,審査・承認までの品質評価,有効性評価,安全性評価を支える科学として機能します。承認後においても市販後のリスク管理,市販後調査・検証およびその対応,さらに適用拡大,剤形追加,製法変更等を行うにあたっての科学として機能します。加えてジェネリック医薬品,バイオ後続品,一般用医薬品等の開発においてもRSは重要な役割を果たします。一方で臨床現場においても,調剤事故防止や調剤・処方監査等の医療安全管理,あるいは治験コーディネートを含めた疾患・服薬指導において,RSに基づく予測,評価,判断は重要です。
本教材案については未だ完成に至っていない部分も多いと関係者は認識しております。ご興味のある方はぜひご覧いただき,忌憚のないご意見をいただければ幸いです。