2015年10月
国立成育医療研究センター 理事長
五十嵐 隆
医学・医療の著しい進歩により、これまで治療が困難であった様々な重症疾患や難病を持つ子どもが以前より長く生存することができるようになっています。例えば、小児期発症の急性白血病患者の5年生存率は約9割となり、約8割の患者さんが成人を迎えることができるようになっています。出生児体重が1,000gの赤ちゃんの生存率は約9割、500gに満たない赤ちゃんの生存率も約5割に改善しています。しかしながら、生存できたとしても、様々な医療的ケアが必要であったり、治療の副作用に悩んだり、新たな障害が生じる可能性を持って成人に至る患者さんが少なくありません。さらに、わが国でも小児期・思春期に発症する糖尿病、自閉症スペクトラム障害、うつ病等の患者さんが増えています。こうした患者さんを「慢性的に身体・発達・行動・精神状態に障害を持ち何らかの医療や支援が必要な思春期の子どもや青年 (children and youth with special health care needs: CYSHCN) 」と呼びます。米国では17歳の子どもの約17%がこのカテゴリーに入ることが指摘されており、わが国でも同様の調査結果が出つつあります。CYSHCNへ適切に対応することが、多くの先進国にとってこれからの大きな問題となりつつあります。
この様な状況に対して、医療に携わる関係者の様々な対応が必要とされます。薬剤師の世界では、現在、国立成育医療研究センターのスタッフなど多くの方々によって、小児薬物療法認定薬剤師を育成するプログラムが平成24年度から開始されました。講習会の受講者は既に1,000人を超え、平成26年度までに453名の小児薬物療法認定薬剤師が生まれています。薬物動態の特殊性、投薬時の様々な配慮、剤型の改良など、どれをとっても成人とは異なる特別の知識と実務体験が小児薬物療法認定薬剤師に求められています。さらに、幼い子どもだけでなく、思春期の子どもの考え方や行動の特徴などを含め、成人に移行する患者への心理面からの配慮も必要です。将来のわが国を担う子どもや青年のために、関係者の方には小児薬物療法認定薬剤師の育成活動に御理解を頂き、温かな御支援を頂けることを願っています。