2016年11月
厚生労働省 医薬・生活衛生局 総務課 医薬情報室 紀平 哲也
昨年度、薬剤師国家試験のあり方に関する基本方針の見直しについて検討が行われた中で、国家試験では、薬剤師として具有するべき知識・技能等を有している者として基本的な資質があるかどうかを確認することとされ、薬剤師となってからも生涯学習や自己研鑽が重要であることがあらためて指摘されました。
医療には次から次へと新しい医薬品や医療技術が導入され、また、新たに得られたデータに基づいて患者に提供される医療も変化し続けています。そのため、現場で患者に相対する薬剤師には、常に知識を更新していくことが当然必要となります。 また、それだけでなく、大学では講義が少ない医療機器に関する知識やOTC、漢方、健康食品等を扱う実践的な知識、患者をサポートするための様々な技能、薬局経営や在庫管理等のマネジメントスキルなど、身につけるべきことはたくさんあります。患者の命に関わる医薬品の有効性・安全性に関する知識の更新はもちろん、住民を支える方策の引き出しを増やし、物品だけでなく医療・健康サービスを関係職種との連携の上で提供できるようになることが薬剤師には求められています。
薬剤師に求められる役割が大きくなっている、と言われてもうずいぶん経ちます。地域包括ケアシステムの構築が進むにつれ、その流れはさらに加速しています。その背景には、病棟業務や在宅ケアに薬剤師が介入することによって、これまで関係職種が気付いていなかった薬剤師の職能が理解され始めた、ということがあります。一方では、昨年の政府での議論であったように、今の薬剤師が提供しているサービスがコストに見合うものとは患者が実感できていない、という観点もあります。患者・住民のためにも、薬学的管理の実践やチーム医療への参画、患者とのコミュニケーション等を当然のこととして体系的に学んでくる6年制卒の薬剤師が、「これをやりたい」と思えるような魅力ある現場を数多く作ってほしいと思います。
在宅医療への参画が必要になるのは理解できるけど、薬局での勤務経験しかない薬剤師には、輸液の調整やがん化学療法などはハードルが高い、という声を聞くこともあります。経験がなくても対応が必要となるのであれば、地域の薬局で教えあうとか、近隣の病院に協力してもらうとか、技能を身に付ける場を作り出すことはできるはずです。「生涯学習や自己研鑽が重要」とは、用意された研修や講習会に参加するだけではなく、自分でその機会・場を作ることも含めた意識そのものが求められているのだと思います。