2019年8月
一般社団法人 日本生薬学会 会長 小松かつ子
令和元年、新しい年号に変わり、世間には実体のない期待感が溢れていますが、実生活では超高齢社会の訪れに伴う諸問題が顕在化しています。医療の分野では、認知症、フレイル、サルコペニアなどの高齢者疾患、肥満や高血圧などの生活習慣病に代表される多因子性疾患に対する治療法や、がんの化学療法に伴う副作用軽減のための支持療法の開発などが求められています。一方、医療費の高騰に伴い、治療から保健医療への転換も図られています。このような時代にあって、長年にわたる治療上の経験知を蓄積し、また未病の概念を有している漢方医学や漢方薬に期待が寄せられています。
漢方薬では、煎じ薬以上に漢方エキス製剤が頻用されるようになり、医療用漢方製剤が病院で処方され、また薬局では一般用漢方製剤が簡単に購入できるようになりました。これに伴い医薬品の品質を保証する日本薬局方でも2006年から漢方処方エキスが収載されるようになり、第17改正日本薬局方第1追補では34処方を数えます。また、2015年12月に厚生労働省で「単味生薬のエキス製剤の開発に関するガイドライン」が策定されたことにより、2017年4月以降、この規格を満足する一般用医薬品が上市されています。さらに、グローバル化に伴い世界の伝統・伝承医学で用いられる生薬が機能性表示食品や健康食品として市場に流通しています。
上記の背景の下、病院、薬局・薬店、製薬企業等で漢方薬や生薬の服薬指導を行い、また医薬品の適正な管理を行うなどの医療に携わっている薬剤師の使命はますます重要になっています。
2000年に日本生薬学会と薬剤師研修センターが共同で開始した「漢方薬・生薬認定薬剤師制度」は、漢方薬及び生薬に関して、服薬指導や適正な取扱いなど薬学的管理を的確に行える薬剤師の養成を目的にしたものであり、当に現在の社会の要請に応えるものとなっています。2018年10月末現在3,300名を超える方が認定薬剤師となっていますが、研修会に参加される皆様方には漢方治療の本質(「証」に基づく診断・治療)や生薬の本質(多成分系医薬品としての品質保証)を勉強した上で、現代の薬剤師として必要な新しい知識を見につけようとする熱意が感じられます。日本生薬学会においてもこれに応えるように研修プログラムを充実させ、漢方医学と生薬を関連づけて学べるように工夫をしていく方針です。多くの薬剤師の皆様方に漢方薬・生薬認定薬剤師研修会を活用していただければ幸いです。