2019年9月
厚生労働省医薬・生活衛生局総務課 薬事企画官/医薬情報室長 安川 孝志
最近、様々な場面で「対人業務の充実」に言及しています。患者のための薬局ビジョンでは「対物業務から対人業務へ」シフトさせることの必要性に触れていますし、診療報酬改定では対人業務の評価を充実させています。現在、国会に提出中の薬機法等の改正法案では、薬剤師による継続的な服薬状況の確認や、特定の機能を有する薬局の認定制度を導入するなど薬剤師・薬局の機能強化を行うこととしています。また、昨年度の厚生労働行政推進調査事業費で実施した薬剤師の需給動向予測では、薬剤師の需要は対人業務を充実させることで高まるが、単に調剤業務のみに特化し続ける状況であれば、機械化等により需要が減少することが指摘されています。
今後は人口減少社会を迎え、支える側である現役世代が急激に減少するため、医療・福祉の現場に人手がかけられなくなります。医療・福祉サービスの生産性を向上させるために、機械やAIなどのテクノロジーを活用することが不可欠です。
このとき、調剤を中心とした業務ばかり対応している薬剤師はどうなるでしょうか。AIの進化が今後どうなるかわかりませんが、今でも調剤機器は進化しており、調剤機器を活用することで薬剤師の負担は軽減されるので、そのような薬剤師は将来的には機械に置き換わってしまうと思います。そもそも、薬学教育6年制は、調剤ばかりする薬剤師を養成することが目的ではありません。
薬剤師に対する最近の厳しい意見は、患者や国民から薬剤師の業務が見えないことが理由の一つです。薬剤師はもっと患者に寄り添って支えていくことが大切であり、そのためには対人業務に取り組んでいくことが必要です。厚生労働省が、ここ数年間ずっと繰り返し対人業務の充実を求めるのは、そのような取組を行い、患者に接していくことで、薬物療法の質が向上することに加え、患者は薬剤師の役割を理解し、薬剤師の姿が見えていくことにつながると信じているからです。
医療技術は急速に進み、薬物療法も革新的な新薬が次々と世に出ています。最新の知識を習得して、日々自己研鑽することが大事なので、研修受講は薬剤師にとって不可欠のものです。薬剤師を専門家として認めているからこそ、制度で研修受講を義務にするのではなく、個々の薬剤師の判断にゆだねているのです。やれと言われないから研修を受けない、調剤報酬の算定要件になったから研修を受けるというスタンスではなく、薬剤師として免許を行使するからには、自己研鑽を積みながら専門性を高めていくことが患者に日々接する医療人として当たり前のことなのです。