2020年7月
専務理事 浦山隆雄
大学4年の6月から講座に配属となり、午前は講義、午後は研究室という生活が始まった。講座では、週に1回のセミナーがあり、事務的な連絡のあと、教官と大学院生が輪番で文献紹介を行っていた。
適当な文献を選んで(主に総説)、内容を要約して説明するのだが、パーソナルコンピュータはもとよりなく、いわゆるコピー機も自由に使えなかった時代であるから、説明用の資料は、通称青焼きと言われていたジアゾ複写機(湿式)で作成した。半透明の用紙に鉛筆で記し、その原紙を感光紙に重ねて機械に通す。コピー機のように枚数ボタンを押せば必要な枚数が出てくるわけではない。1枚1枚手作業である。1組3枚でも20人分であれば、通す作業は60回。1枚当たりの作業時間を短縮しようとして機械の速度を上げれば、濃く感光して文字が読みにくくなる。一番悲しいのは、原稿が機械のローラーに巻きつくこと。そうなると、油状の液体が原稿に染み込み、使えなくなる。原稿の作成し直しである。
コピー機が普及し、誰でもが容易に使えるようになって、ジアゾ複写はなくなったと思っていたが、描いた線の太さが複写によってほぼ変わらないので、一部では根強い需要があり、かなり最近まで使用されていたそうである。
新しい技術が登場して旧技術が駆逐されていきながらも、残るものがある。薬剤師の業務で、長く残るものは何だろうか。
ある大学病院の薬剤部長・教授の講演要旨集を拝見していたら、「モノからヒトへの流れは必然である。だからこそ、基盤として薬剤師に必要なものはモノの知識である。」ということが書かれていた。他の職種と協働して医療に携わっていくとき、薬剤師が常にヒトをターゲットにするためには、その基盤となるモノの知識を絶えず習得していくことが必要であるという指摘である。その実現のためにも生涯学習の意義は大きい。
令和元年度より、認定申請時に「生涯学習自己診断表」の提出を必須とした。薬剤師生涯研修の指標項目ごとに、必要とする度合いと学習した状況とを点数で記載し、不足している学習項目を自ら見出すためのものである。令和元年度の認定者数は、新規、更新合わせて約5万人であるから、それだけの薬剤師が、自己診断を行ったことになる。
自己診断によって、生涯学習の足らざるところを見出し、次の学習に繋げて欲しいと願っている。各自のその積み重ねが、薬剤師の業務で残るものの見い出しに繋がるであろう。