2021年4月
理事長 豊島 聰
一昨年の秋に始まった新型コロナウイルス感染症(コロナ感染)の蔓延は、我々の社会生活に大きな影響を与えてきました。例えば、感染の拡大を防ぐため、飲食店には営業時間の短縮が、国民には大人数での会食、同居家族以外との会食や不要不急の外出の自粛が要請されました。このことは、多くの飲食店に大打撃を与えるとともに多くの人からストレスを発散する場を奪いました。コロナ感染の蔓延が終息すれば飲食店へのヒトの流れは回復すると思われますが、閉店を余儀なくされた飲食店もかなりの数ありますので、完全に元に戻るには時間がかかることが予想されます。また、通勤や職場での密を避けるため在宅勤務が奨励されました。在宅が適当な業務内容の職種にあっては、人間に必要な直のコミュニケーションが失われるデメリットはありますが、通勤時間の低減に加えオフィス利用の効率化が増すなどのよい効果も出てきているようです。コロナ感染には、これまでの社会生活に内在されていた課題を明らかにする効果もあったように感じます。コロナ感染が終息したときには、全てが元に戻ることではなく、社会・人間にとってよい変化は残っていくことを期待したいと思います。
ところで、コロナ感染の蔓延は、薬局にくる処方箋数を減少させました。このことは、薬剤師に対し処方箋調剤にのみ専念することなく新領域でより広く医療に貢献していくべきとの方向性が示されたことを感じさせます。我が国は現在超高齢社会ですので、長期的には劇的な人口減少が考えられ、薬剤師に対する需要が供給を下回ることが見 込まれます。コロナ感染による処方箋数の減少は、長期的な薬剤師需要の減少を先取りして変化を促しているのかもしれません。コロナ感染以外にも薬剤師を取り巻く環境の変化が、薬剤師のこれからの職能発揮の方向性を示してきています。例えば、国をあげて推進している電子処方箋の導入です。これまで紙で運用されていた処方箋を電子的に管理する仕組みである電子処方箋には、多くのメリットがあるにもかかわらず、普及が進んでいませんでしたが、これから薬剤師はこの電子処方箋への対応力が試されてくると思います。コロナ感染がもたらした社会変化の中には、薬剤師がこれから職能を発揮していく上での課題を明らかにし、日常の業務の多忙を理由に何気なく感じていた課題や課題解決への対応について考えさせてくれたものがあると思います。この機会に薬剤師には課題を見つめ直して、地域に密着した医療での活躍を期待します。