2021年11月
専務理事 浦山隆雄
大学4年から3年間講座に配属されていたが、その間、指導教官が英文雑誌への投稿論文作成のためにタイプライターを打っているのを良く見かけた。ときどき、誤って打刻し、最初からやり直しとなっていた。講座に配属されて2年目の頃、記憶装置のついたタイプライターが1台購入された。今からすれば、それほどの記憶容量ではなかったと思われるが、それでも誤ったときに最初からやり直しとならないことに、教官は喜んでいた。私は力が足らず、投稿論文を作成することはなかったが、就職してから経験した文書作成・修正の手間を思い出してみれば、当時の教官の喜びはよく分かる。ワードプロセッサ、パーソナルコンピュータ(PC)のソフトと、文書作成ツールが充実してきた今からすれば笑い話のようなことではあるが、当時は切実な問題であった。
このメモリー付きタイプライターは使えるようになって嬉しいの一言であるが、新たな技術が世に出たとき、多くの場合、嬉しいだけでは済まない。その技術を利用するための習得・習熟には、それなりの努力が必要である。しかし、だからといって、元へは戻れない。技術の進歩を取り入れた業務の変化は一方向である。銀行の業務が対面からATMにシフトしたが、操作に戸惑うというからと言って、対面重視に戻ることはない。さらに、ネットバンキングへ進んでいくだけである。
電子化の波は急速であり、医療の世界も例外ではない。今や電子カルテは普通のこととなり、電子処方箋も目前である。薬剤師がその波に押し流されないよう、各自が認識して対処する必要がある。
当財団は、現在研修を含めた認定制度の電子化を進めている。これが本格稼働した暁には、パソコンやスマートフォンを利用した研修の受講や認定の申請が、簡素化、迅速化されるものと考えている。
一方、その変化に戸惑う人もいるであろう。
しかし、まずは、PCが業務に入り込んできたときのことを思い出して欲しい。多くの人は、ことさらに難しく記述しているのではないかと思うほど説明内容がわからないマニュアルを読むのを諦め、自ら試行錯誤しながら操作方法を習得・習熟していったのではないだろうか。「習うより慣れよ」と古(いにしえ)の人は言った。