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薬剤師研修支援システム

 大変革期における新生薬剤師誕生へ 

2022年11月

     一般社団法人Medical Excellence JAPAN 理事長  笠貫 宏

 

 西洋では神聖ローマ時代から、薬を処方する者と調剤する者を分ける医薬分業が存在した。しかし、日本では平安時代から医師が「薬師」と呼ばれ、処方と調剤を兼ねる時代が江戸時代まで続き、薬剤師、薬局、医薬分業の概念は、明治時代、ドイツ医療制度の導入時に始まる。そして戦後、1951年にGHQ占領期にいわゆる医薬分業法が制定され、1960年に制定された薬剤師法で薬剤師は医師と同様の独立した医療職と規定された。その後、薬価差益や多剤処方等の社会問題が顕在化したため、国は医薬分業を推進し、1990年代には院外処方せん発行に高い診療報酬を設定し、医薬分業率は急速に上昇した。しかし、医師や国民の薬剤師への信頼は必ずしも得られなかった。

  21世紀に入り、2007年に超高齢社会に突入し、2025年問題に向けて、「地域包括ケアシステム」構築が喫緊の課題となり、医薬分業を含む医療提供体制における薬剤師と薬局をめぐる環境は大変革期に突入した。

 第1に、2006年には、学校教育法改正により薬学教育制度及び薬剤師国家試験制度が変わり、高い臨床能力を持つ薬剤師養成のため薬学教育は4年制から6年制となった。第2に、2007年には、第5次医療法改正により薬局は病院診療所等と並び医療提供施設と定義づけられた。第3に、「骨太の基本方針 2015」により「患者のための薬局ビジョン」が策定された。患者中心の医薬分業の実現に向けて、薬剤師には薬から患者を診る存在へ、保険薬局にはかかりつけ薬局、24時間対応在宅対応薬局、健康サポート機能を果たす薬局への転換である。その中で、薬剤師の役割は増大し、その責任は重い。服薬情報の一元的・継続的把握と薬学的管理・指導義務、ジェネリック医薬品の代替選択と評価、インフォームドチョイスとセルフメディケーション推進、服薬期間の安全管理等が求められる。

  薬は劇的な効果をもたらす半面、副作用のない薬はなく、毒薬にもなり、薬害も引き起こす。医薬分業の下では、『薬は薬剤師にとってメスになる』、『薬剤師は薬によって育つ』のである。副作用や効果の評価は難しく、医学の進歩に伴い医師と同様に生涯教育は欠かせない。薬剤師は、医療人としてチーム医療を実践し、医師とコメディカルの信頼を確立し、協調・連携を深め、患者・国民の信頼を得ることが最重要課題である。

  薬剤師自ら、この大変革期を認識した上で、医療人としての新生薬剤師の誕生を期待したい。