2022年12月
専務理事 浦山隆雄
人類が薬に出会ったきっかけは何であろう。
酒は、破損した蜂の巣に溜まっている雨水に由来する(蜂蜜酒)、あるいは保存していたブドウ類が自然に発酵したものに由来するなどと言われる。
薬の由来は、やはり植物であろうか。動物が食べている植物を食べてみたら腹痛が治まった、住居の近傍に生育している植物を口にしたら頭痛が改善した、などか。しかし、動物が食べている、近くに生えている、という植物を口にするのは、ナマコを食べる、あるいはタコを食べるほどではないにしても、勇気が必要である。苦いセンブリなど、直ちに吐き出すのが通例ではないだろうか。
しかし、いったん何らかの薬効が見いだされれば、その知識は、長老を中心に集約され、伝承されたであろう。長老の存在価値はさまざまな情報の集積にあったと思われるから、構成員からの報告を待つだけでなく、長老自らも情報を収集したと思われる。また、集団同士の情報交換が容易に行われたとは思われないが、異集団間の婚姻があれば、それは情報伝達の一手段となる。
このようにして、薬の情報は徐々に集積されていった。その集大成の一つが、東洋でいえば漢方薬に関わる書物の作成であろう。やがて、科学技術の発展とともに、薬効を示す植物が分析されて主成分が分離精製され、あるいはそれらを参考に医薬品が合成されていった。三、四十年前を振り返れば、一般名が何とかマイシン、あるいはセフ何とかという医薬品が多くあった。今多く存在を感じるのは、何とかマブであろうか。
現在、薬に関する多くの情報が集積され、整理され、保存されている。インターネットの普及により、その情報へのアクセスは容易である。大量の書物と格闘しなければ情報が得られなかった時代とは隔世の感がある。
だが、薬剤師はそれらの情報を自らの力で得ているだろうか。
何もしなくとも、情報はさまざまな方法でやってくる。そんな時代にあっても、自らの力で収集することは重要である。なぜなら、与えられる情報は提供者のフィルターがかかっているからである。
PECSが本稼働して8か月になる。薬剤師の個人登録者は16万人になろうとしている。しかしそれでも、未だに、お知らせが来なかったから登録していなかったと言ってくる薬剤師が存在する。与えられた情報に頼り切り、それをなんとも思わないことの現れである。
生涯学習も同様である。生涯学習は指示されて行うのではなく、自らの意識で継続して行うものである。研修認定薬剤師でありながら更新認定に必要な単位取得条件を知らない薬剤師がいたりする。ホームページを見ることで、容易に認知できる情報であるにもかかわらずである。○○の申請の方法を教えて欲しいとだけ書いてある電子メールもくる。
これから厳しい時代を迎えるであろう薬剤師が、自ら立って歩んでいくためにも、意識を持った生涯学習が必要である。積み重ねた学習の成果を総合し、国民にとって有意な薬剤師の生成が必要である。