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薬剤師研修支援システム

 薬剤師 

2023年3月

     専務理事 浦山隆雄

 

  近年、モノからヒトへと言われるが、誤解を招く虞のある表現だと思う。薬剤師がモノから離れ、ヒトにだけ関わるように捉えられかねないからである。

 そもそも、薬剤師の本旨はモノ管理である。モノである医薬品を世に出すために、シーズの見いだし、物性や薬効薬理の研究、効率的な物質創成方法の確立、治験薬管理など、薬剤師が中核を担うべきことが多くある。医薬品が世に出てからも、製造管理、流通時の保管方法、医療機関における管理・品質保持など、モノを正しく取扱うことが薬剤師の第一の役割である。

 一方、医薬品はヒトに投与され初めてその役割を果たす。いくら正しく取扱ってきても、その医薬品をヒトが正しく摂取しなければ、薬効発現は望めない。だから、最終段階で、薬剤師はヒトとかかわり、ヒトに正しく摂取してもらえるようにする役目を果たす必要がある。

 これまで、薬剤師はモノの管理に多くの時間を割かざるを得なかった。その分、ヒトにかかわる時間は短くならざるを得ない。しかし、現今のITを初めとする技術革新は、モノの管理に必要な時間を大幅に削減した。ただ、その分の時間をヒトへの対応に充てるというと、短絡的にコミュニケーション力が必要といわれ、顧客への接し方の研修が行われたりする。

 ある研修会で聞いた話である。患者さんに新薬に代わったと説明したら、どこが違うかと聞かれ、しばらく調べた後、構造式のここが違うと指し示した、これでは薬剤師の対応として適切ではないと。

 構造式などモノについて調べたこの行動は、薬剤師として間違っているものではない。構造を知って物性を摑み、薬物の挙動を理解して、溶解性、吸収性などから効果発現の状況を把握し、副作用を防ぐ手立てを考える。誤っていたのは、それをあらかじめ調べておかず、患者に聞かれたその面前で行ったこと、そしてモノの特性が、患者がその薬を服用したときにどのように関わるのかということが念頭になかったことである。薬剤師にとって必要なコミュニケーション力は、モノに対する深い知識を元に、個々の患者それぞれに応じた形での医薬品情報の提供ができることであると思う。

 たんにモノを知るだけではなく、そのことと患者というヒトとの関わりに思いを廻らせるようにならなければ薬剤師の将来はないであろう。

 薬剤師という名称が日本に誕生したのは、1889(明治22)年であり、130年余りの年月を刻んできた。これからの100年、200年後にも、国民の健康保持に大きな役割を果たしているよう願っている。