2023年4月
理事長 豊島 聰
春の息吹が感じられる4月は、多くの若者が、新社会人として巣立つときです。今年、薬剤師免許を取得した新人薬剤師も、その職能を活かせる職場に就職したことと思います。
最近の薬剤師の就職先を一般社団法人薬学教育協議会令和4年11月発行の「令和4年3月薬系大学卒業生・大学院修了者就職動向調査の集計報告」で調べてみますと、令和4年3月6年制薬学卒業生総数9948人のうち薬局(ドラッグストアなどを含む)に5027人、病院に1876人、行政に国33人・地方175人、製薬企業等企業に625人、大学に6人、試験研究機関に16人、進学307人、研究生98人、その他となっていました。また、4年制の薬学博士課程終了者総数98人では、製薬企業等企業に30人、行政に4人、薬局に5人、病院に19人、試験研究機関・大学に35人でした。
この結果は、広範な医療関連の職場で薬剤師が活動していくことを推測させますが、昔に比べ、製薬企業等の企業、行政(特に国)、試験研究機関・大学への就職者が顕著に減少しています。医薬品の開発には、病態生理と医薬品の化学構造の両方を理解できる薬剤師には大きなプライオリティーがあると思われますが、そのことが社会的には認識されていないのかもしれません。行政、特に薬剤師の職能と大きく関係する厚生労働行政にかかわる国家公務員に薬剤師資格を有する人が減ることは、薬剤師がその職能を医療行政の中で十分発揮して行くために不都合が生じる危惧を抱かせます。また、大学・試験研究機関、特に大学への就職者が減ることは、薬学の教育・研究に薬剤師の資格を持つ教員の数が激減することを意味します。薬剤師の教育には一定数の薬剤師資格を有する教員は必須であり、将来の薬剤師教育に不安を感じさせます。
これら薬剤師の就職が激減した職種においては、博士課程終了者の就職割合が高いのですが、近年の4年制大学院博士課程への進学率は非常に低くなっています。未来の薬学のためにも大学院博士課程へ進学する薬学生が増えることを期待しています。