2023年6月
一般社団法人日本生薬学会 会長 青木俊二
日本では、諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行しており、これを見据えて厚生労働省は、2025年を目途に、高齢者の自立生活を支援する地域の包括的な支援・サービス提供体制、すなわち「地域包括ケアシステム」の構築を推進しています。
地域包括ケアの重要な柱の一つが、「セルフメディケーション」で、ここでの薬剤師の重要性は自明です。病院での診療・投薬に頼る前に、地域の薬局で薬剤師に相談し、一般用医薬品の服用で症状の緩和や治癒が実践できれば、医療リソースへの負荷が軽減し、かつ適切な配分が可能になります。また、いわゆる生活習慣病や加齢に伴う様々な身体症状は、「疾病と健常状態の中間状態」という捉え方もでき、これらの改善についても、セルフメディケーションは有効だと考えられています。
そのような背景から、セルフメディケーションにおいて非常に有用と考えられるのが「漢方薬」です。上記のような「疾病と健常状態の中間状態」は、中医学での「未病」という概念に重なると考えられ、漢方薬の適用が最も相応しい症状と考えられています。実際、医療現場でも「未病」に対して漢方薬の投与が多く行われており、著効を示す例も少なくありません。薬剤師業務の中で漢方薬に触れることは必須になっており、薬剤師は今後、ますます漢方薬についての深い知識を求められると考えられます。
日本薬剤師研修センターでは、日本生薬学会と協働して2000年4月より「漢方薬・生薬認定薬剤師制度」を運用しております。日本生薬学会に所属する多くの学会員が、カリキュラム編成やテキスト編纂、座学講義の講師、薬草園研修や試問の実施など、運用に深く関わっており、本制度の中心的役割を担ってきました。本制度での学びは、漢方薬を扱うことが必須である薬剤師の職能向上に確実に寄与するものです。
漢方薬は、作用メカニズムに基づいて開発される現代の医薬品とは異なり、2000年に渡り用いられてきた、その効果がヒトへの使用実績という経験に裏打ちされた、ある種、特殊な医薬品です。一方で、その作用を最先端の科学ベースで解明するという研究が、現在も活発に続けられており、当学会でも多くの発表が行われます。漢方薬・生薬認定薬剤師制度の中では、そのような生薬・漢方薬の最新の情報に触れる機会も設定されており、本認定薬剤師資格の取得は、薬剤師の生涯教育としても非常に有用だと考えられます。
是非、漢方薬・生薬認定薬剤師制度をご活用いただき、薬剤師としての職能向上の一助にしていただければ幸いです。