2024年9月
前食品安全委員会委員 川西 徹
食品の安全における今年前半の大きな話題として、「紅麹」成分を含む機能性表示食品を摂取したヒトが腎臓の疾患などを発症した問題があります。その原因についてはまだ確定したとはいえませんが、おそらくは「紅麹」成分の製造工程中での青カビ汚染によって生成した不純物による毒性とされています。
この事件に関する課題としては主に2点が指摘されています。一つは健康問題が生じた製品についての健康被害情報の把握、およびその公表・自主回収までに時間がかかったことをうけて、食品メーカーによる健康被害情報の収集、行政機関への情報提供の義務を明確にするとともに、医師、薬剤師、栄養管理士等から健康被害情報を幅広くかつ適切に収集する仕組みの検討があります。二つには、機能性表示食品を含む いわゆる「健康食品」、特に機能に関与する成分を濃縮して製造した製品や、錠剤やカプセル剤にしたサプリメント形状の製品については、従来から適正な製造工程管理(GMP管理)が推奨されているものの、さらにその徹底を図ることが指摘されています。
これら2つの課題について、薬剤師の職能の視点から考えてみます。一つめの情報収集については、近年、これからの薬局・薬剤師のあるべき一つの姿として示されている健康サポート薬局等の機能を持った薬局における薬剤師の役割に密接に関わると思います。薬剤師は、その教育課程の必須科目に衛生薬学があり、その中で食品衛生関連の教育が行われており、薬剤師国家試験においても必須問題、一般問題として出題されています。さらに、日本薬剤師会と薬剤師研修センターが行う「健康サポート薬局に係る薬剤師研修プログラム」には健康食品に関する研修が組み込まれています。このように、薬剤師はいわゆる「健康食品」による健康被害をいち早く発見、情報収集の中心となりうる教育システムの中にいます。とりわけ機能性成分を含むサプリメントは、安全性の観点から摂取時に医薬品との相互作用の可能性の判断が重要ですが、薬剤師はこの点でも、サプリメントの適切な使用についてアドバイスをするに適したポジションにいます。加えて、二つめの製造管理の問題ですが、食品メーカーで食品衛生管理を担当している薬剤師や、これら製品の規制に関わる機関で働く薬剤師は、この度の健康被害問題においても、問題解決の中心となって活躍している薬剤師は少なくありません。
このように薬剤師の職能は広く、いわゆる「健康食品」の適正使用をはかるうえでも、ますますの活躍が期待されるものと思います。