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薬剤師研修支援システム

有効数字と電子天秤 

2025年3月

国立医薬品食品衛生研究所名誉所長 薬事審議会日本薬局方部会部会長
合田幸広

 

 「有効数字」は「測定結果などを表す数字のうちで、位取りを示すだけのゼロを除いた意味のある数字」(JIS K0211)と定義されています。

 私は、中学校の最初の物理の授業で、アナログである竹の物差しを渡され、測定値は最小目盛りの1/10まで読みなさいと言われ、その数字までが有効数字だよと習いました。これは、人間の目の解像度が目盛りの一桁下まである(最小目盛りのさらに一桁下の誤差が±50%以内)とする考えに由来します。

 それでは、デジタル表記される現在の電子天秤の有効数字はどこまででしょうか。表示されない一桁下の部分は読めないから、表示されている部分までが有効数字だよねと思われる方も多いのではと思います。それでは電子天秤で、最小表示の一桁下の数字はどうなっているのでしょうか。実はその一桁下は、サイコロを振るのと同じように0から9がランダムに出、その数値を四捨五入し最小表示桁の数字が決まっています。従って、最小表示桁の誤差は±100%より大きくなります(セミミクロ天秤で±130%以上、±300%以上の天秤もある)。

 医薬品には、必ず定量試験が規定されます。例えば規格値が98.0%~102.0%の場合、医薬品や定量用の標準物質を秤量する際の天秤の有効数字(桁)は何桁必要だと思われますか。上限値付近の結果が出る可能性を考え少なくとも4桁は必要と思われるでしょう。4桁だとすると、医薬品数mgしか秤量しない試験であれば、1μgの桁まで表示されるミクロ天秤が必要です。それでは、もし実験値に基づく計算結果として定量値が102.04%と出た場合、この医薬品は5桁目を四捨五入して規格適合として良いのでしょうか。現在の日本薬局方のルールに従えば適合となります。これは、通則25「医薬品の試験において、n桁の数値を得るには、通例(n+1)桁までの数値を求めた後、(n+1)桁目の数値を四捨五入する」に基づいた結果だからです。

 でも先ほどの電子天秤の最小表示桁の誤差について知ると、これは科学的に正しいのだろうかと不安になりませんか。実は、今年6月に告示された18局第二追補で、電子天秤の使用が一般的になった現代に合わせ、はかり(天秤)及び分銅の項の大改正が行われました。さらに、2年後告示の第19局では、同項に「はかり(天秤)の,読取限度桁の数字は試験での計算に使用するが,規格値の判定の際に使用する有効な桁数とは見なさない」が加わる予定です。これは、前述したJISの「意味ある数字」、即ちぎりぎりの適否の判定に使える数値であるかどうかを読み込んだものです。従って、ミクロ天秤を使い通則25を読み込んでも、5桁目を四捨五入して102.04%を適とするには、10mg以上秤量する必要があることになります。またそれに合わせ通則39も「定量に供する試料の採取量に『約』を付けたものは,記載された量の±10%の範囲をいう.ただし,『精密に量る』場合において,その-10%の範囲の秤量により有効数字の桁数が少なくなる場合には,規定された数値に求められる有効数字の桁数を維持する範囲で採取を行う」と有効数字(桁)を意識した形に改正される予定です。

 局方も時代に合わせ、刻刻と変わっています。最新の局方がどうなっているのか、時間があるときに是非読んでみてください。新しくなった通則、一般試験法、参考情報等を読むと、医薬品の品質確保のために科学として何が行われているのか、新しい情報が得られますよ。