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午年に因んで ―  馬とA I 

2026年1月

理事長 矢守 隆夫

 

 新年明けましておめでとうございます。この一年がみなさまにとって実り多い年となりますよう祈念いたします。

 今年は午年でありますので、午年に因んで馬についてお話をさせていただきます。馬の進化の歴史を辿りますと、その起源は約5,500万年前に現れた「ヒラコテリウム」とされています。この祖先は狐ぐらいの小型サイズで、指が複数ある森林に住む動物でしたが、進化を重ね約100万年前には前肢も後肢も指が1本となり、草原を走るのに適した蹄(ひづめ)を持つ「エクウス」が現れました。これが現代の馬の祖先で世界中に広がったと考えられています。馬の利活用の歴史は、人類の文明の発展と密接に関わっており、時代とともにその役割を大きく変化させてきました。当初は食料や狩りの対象でしたが、やがて家畜化され、交通、軍事、農耕、娯楽など多岐にわたる分野で重要な役割を担うようになりました。

 馬の医療への歴史的貢献についても見てみましょう。馬由来の薬用資源として馬油が挙げられます。馬油の歴史は古く、約4000年前の中国騎馬民族の時代に利用が始まったとされています。5〜6世紀頃には中国の医書「名医別録」に馬油の利用法が記されており、皮膚の保護や治療などに用いられてきました。日本へは約400年前に伝わり、現在でも民間療法や化粧品として広く利用されています。また、馬が主要な交通機関であった時代には、往診する医師の移動や、薬の遠隔地への運搬に不可欠な存在でした。現代医学においては、馬は血清療法の開発に大きく貢献しました。すなわち、馬に抗原を注射し、産生された抗体を含む血清を採取して治療薬(抗血清)として利用する研究が行われ、ジフテリアや破傷風などの感染症治療に画期的な成果をもたらしました。

 簡単に馬の歴史について述べましたが、本稿で最も指摘したいのは、人間が馬と出会うことによって、飛躍的な「速さ」と「持久力(移動範囲の広さ)」を持つ移動手段を手にすることができたことです。それは、現代の私たちには想像を絶する衝撃だったに違いありません。西洋史研究家の本村凌二氏はその著書「馬の世界史」の中で、馬によって文明の進化や歴史の速度が早められたと分析し、「もしも馬がいなかったらば、21世紀もまだ古代にすぎなかったのではないだろうか」と興味深い見解を述べています。それほど馬の人間社会へのインパクトは大きかったわけですが、私はこのような馬の歴史的インパクトから現在の人工知能(AI)を連想しました。情報の収集と分析において飛躍的性能を発揮するA Iは、上記の馬とイメージが重なります。A Iの普及が加速するであろう本午年は、今後の社会構造や技術革新の方向性に大きな影響を与える歴史的転換点となる可能性があります。そんな目でこの1年をご覧になってはいかがでしょうか。