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技術革新と「個」の患者に向き合いながら
 -新時代の医療を担う薬剤師への期待- 

2026年3月

東京医薬品工業協会 理事長
山本 史

 

 三寒四温のこの時期は、薬剤師の国家試験の季節でもある。6年薬学一期生が国家試験を迎えたのが2012年3月。早いものでそれから14年が経つ。当時緊張と期待とともに薬剤師としての一歩を踏み出した皆さんも、その後多くの経験を積み、今や現場を担う立場で活躍している方々が多いだろう。今年も多くの薬学生が国家試験に挑み、春には薬剤師として活動を始める。大学での学びは薬剤師の基盤を形成する重要なものであるが、やはりなんといっても実際の現場での活動、そして患者さんと向き合うことで得られる経験と知識は他に代えがたい貴重なものである。新しく歩みだす薬剤師一年生の皆さんは、アンテナを立て研鑽に励んでいただき、また、現場で活躍している先輩薬剤師には、後輩の良き導き手となっていただくことを期待する。

 近年、私たちを取り巻く医療環境は、かつてないスピードで変貌を遂げている。創薬モダリティの多様化は目覚ましく、抗体医薬や核酸医薬、さらには再生医療等製品といった高度な技術を搭載した製品と治療法が次々と実用化されている。加えて、医療DXの進展により、マイナ保険証や電子処方箋といった仕組みの整備の他、AIやビックデータの活用が日常診療に浸透しつつある。私がかつて薬学部で学んだ時には欠片もなかったことが多く、薬学一期生の大学教育で触れられていなかったものも少なくないのではないだろうか。

 しかし、技術がいかに高度化・精緻化しようとも、医療の本質が「人」にあることは不変である。むしろ、治療の選択肢が増え、情報が氾濫する時代だからこそ、患者一人ひとりの背景、状況等を考慮し、寄り添った「個々に最適な薬物療法」の提供が、これまで以上に重要性を帯びてくる。多様化する、高度な医療技術と目の前の患者という「個」をつなぐ役割を担うのが、他ならぬ薬剤師の皆さんである。

 皆さんには、最新の薬学知識やデジタル技術を柔軟に取り入れ続けていただくとともに、医療チームの中で、医師や多職種と連携し積極的に医療と患者さんに貢献していただくことを期待する。そして、医薬品を創り(つくり)造り(つくり)育て届ける製薬の分野にも興味を持っていただけるなら、ぜひ挑戦いただきたい。医薬品は、薬剤師が関与してリスク・ベネフィットバランスを最適化することで最もその力を発揮できるものである。