2026年5月
厚生労働省 医薬局 医薬品審査管理課長 紀平 哲也
緊急避妊薬であるレボノルゲストレル製剤が昨年10月に要指導医薬品として承認され、本年2月から薬局・店舗販売業での販売が始まりました。この経緯からその意味を考えてみたいと思います。
緊急避妊薬のスイッチOTC化の要望が提出されたのは2016年。検討会議での議論の結果、翌年にスイッチ化は「時期尚早」とされ、安易な販売や悪用・濫用等の懸念、性教育の遅れのほか、薬剤師が女性の生殖や避妊、緊急避妊に関する専門的知識を身につける必要性が指摘されました。これは、薬剤師の対人業務・顧客対応としての専門教育が行き渡っていないと受け止められたものと考えられます。
その後、海外調査や関係者からのヒアリング、パブリックコメントが実施され、2023年にスイッチ化の課題点と対応策が整理され、①年齢制限の要否、②プライバシーの確保の在り方、③薬剤師による対面販売の在り方、④産婦人科医との連携の在り方の4点が挙げられました。また、一定の要件を満たす特定の薬局において、試験的に緊急避妊薬の販売を行うモデル的調査研究が開始されました。
この調査研究の結果や若い世代の代表者等の意見も踏まえ、緊急避妊薬が要指導医薬品として承認されましたが、販売時の要件として、研修を受講・修了した薬剤師による販売と薬剤師の面前での服用、薬局等におけるプライバシー確保、薬剤師による産婦人科医・児童相談所・ワンストップ支援センター等との連携が求められています。
緊急避妊薬の「販売」において薬剤師に求められるのは、薬についての薬学的な専門知識だけではなく、需要者への対応とそのための知識であり、緊急避妊薬においては「性と生殖に関する健康と権利」(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:SRHR)の理解が基礎となります。また、緊急避妊薬を必要とする方の中には、日常的な避妊方法も含め、生活全般に不安を抱えている結果として緊急避妊薬の使用に至る方の存在も想定されるため、「販売」に際しては薬の提供とともに心身のサポートが必要であり、社会的支援制度や虐待・性犯罪に対する対応についての関連機関との協力・連携が不可欠です。
患者・需要者が抱える課題に寄り添った対応は、緊急避妊薬に限らず、他の要指導医薬品や一般用医薬品の販売、処方箋調剤、ときには健康食品・サプリメントや衛生用品等の販売においても行われるべきことで、「患者のための薬局ビジョン」において「対人業務」や「連携」という言葉で示されていたものです。医薬品の「販売」という行為は、モノとしての医薬品と情報の提供に加えて、必要とされるサービス・支援の提供・紹介を伴うことがその価値を高めるものであり、そのための知識・技能をアップデートしていくことが薬剤師における研修の意義であると考えます。