2026年8月
公益財団法人 日本薬剤師研修センター 評議員
(公益財団法人 がん研究会有明病院 名誉院長)
山口俊晴
1999年に日本で重大な医療事故が二件発生しました。一件は大学病院の手術室で、肺の手術予定の患者と心臓の手術予定の患者を取り違えた事故です。それぞれ、誤った手術が行われてしまい、集中治療室に入ってから初めて取り違いに気が付きました。もう一件は、消毒薬を誤って患者の静脈内に投与し、患者は死亡するという悲惨な事故です。
1999年12月には豊島区大塚の癌研究会附属病院(現在のがん研有明病院)でも、抗がん剤の過量投与による副作用で患者が死亡する事故が発生しました。私は2000年4月に癌研究会附属病院に赴任し、4月21日全国紙の記事で初めてこの事故のことを知りました。記事では副作用による死亡事故と知りながら警察に届け出なかったこと、公表せず家族に説明したのも事故から2か月以上経過してからであったことなどが問題視されました。実際、事故に関しては調査委員会を設置し、報告書も作成していましたが、職員やご遺族には十分説明されていなかったのです。
新しく事故調査委員会が設置され、小生もその一員として事故の調査にあたりました。医師、看護師、薬剤師に事情を聴取しましたが、驚いたことに看護師も薬剤師も全く自分たちの責任を自覚していませんでした。自分たちは医師の指示を忠実に守っただけであり、責任を追及されるのはおかしいという主張です。聞き取りを進めるうちにこの病院では医師の判断が絶対であること、医師、看護師、薬剤師相互のコミュニケーションの極めて悪いことが明らかになってきました。
処方のチェック体制や、副作用の観察の強化、インシデントレポートの匿名化など、多岐にわたる対策が立案、実行されました。また、2012年に病棟薬剤業務実施加算(100点/週)が新設され、今まで調剤中心だった病院薬剤師が病棟でも活躍するようになりました。その結果病棟に配置され、看護師からは大歓迎されるとともに、患者に対面して薬剤師としての知識が活用され、感謝されることで薬剤師のモチベーションが極めて高くなりました。普通の病棟だけでなく、手術室、集中治療室、外来でも薬剤師は大活躍しています。今や医師、看護師、薬剤師、そのほかの医療スタッフが同じ舞台に立ち、協力して医療安全を守る体制ができています。病棟や外来にきちんと薬剤師が配置された病院しか生き残れない時代が来ています。薬剤師の皆さんの益々の活躍に期待しています。